第3回|ロードショーマテリアル(ロードショー資料)の組み立て方 —— 価値創造ストーリーを「伝わる説明軸」にする方法【チェックリスト付き】
1. はじめに
本連載『IPO準備から始める「エクイティストーリー」のつくり方』の第2回では、顧客や社会への提供価値、それを生み出す強み、収益につながる仕組み、成長の道筋、リスク認識と経営の意思という5つの視点から、企業価値の構造を整理する考え方を見てきました。
第3回では、そこで整理した構造を、投資家に伝わる説明軸としてどのように組み立てるかを解説します。
2. 投資家説明を「対話の起点」として位置づける
投資家説明では、自社の事業内容や成長戦略を分かりやすく伝えることが求められます。しかし、正確な情報を漏れなく示すだけでは十分ではありません。説明を尽くそうとするあまり、詳細な会社紹介にとどまってしまうこともあります。
投資家が求めているのは、その会社を投資対象として評価するための材料です。
ロードショー資料などでは、企業概要、市場環境、事業内容、自社の強み、成長戦略、財務情報などを説明します。重要なのは、これらの情報を個別に並べるのではなく、企業価値が生まれる構造に沿ってつなぎ直し、投資家が納得できる説明軸として、ストーリーへ展開することです。
もっとも、最初から完成度の高いストーリーをつくろうとすると、行き詰まってしまうこともあります。
投資家説明は、一度きりで終わるものではなく、上場後のIR活動へと継続していくものです。そのため、IPOにおける投資家説明を、自社の価値創造ストーリーを投資家と共有し、継続的な対話を始める場として位置づけることが重要です。
その意味では、事業の魅力や成長可能性を伝えるだけでなく、投資家がどのような点に関心や疑問を持つのかを想定し、質疑応答やその後の対話につながる論点を整理しておくこともおすすめします。
3. 自社ならではの価値創造を中心に説明軸を整える
第2回で整理した5つの視点は、企業価値を生み出す要素とその関係を把握するためのものです。投資家に説明する際には、そこで見いだした構造を、相手が理解しやすい順序と時間軸に置き換える必要があります。
投資家説明に備えるうえで特に重要なのは、自社ならではの価値創造が伝わる説明軸を用意しておくことです。
市場が成長していても、その市場機会を自社の成長につなげられる根拠が見えなければ、十分な判断材料にはなりません。また、事業やサービスの特徴を丁寧に説明しても、それが顧客価値、収益、成長戦略とつながっていなければ、企業価値の全体像は伝わりにくくなります。
価値創造ストーリー(エクイティストーリー)は、たとえば次のような流れで示すことができます。
1. 市場・顧客課題
2. 自社が提供する価値
3. 価値を生み出す強み・競争優位性
4. 収益化の仕組み
5. 成長戦略
6. 財務計画・KPI
7. リスク認識と経営の意思
重要なのは、これらを順番に並べることではなく、一貫した因果関係としてつなぐことです。
上記の要素を投資家に伝わる流れとして組み立てると、次のように説明できます。

このように、企業価値の構造に時間軸と因果関係を加えることで、現在の価値創出から将来の成長へと展開する価値創造ストーリーが見えてきます。
4. 成長可能性に、経営の意思を添える
企業の成長可能性を示す際には、成長戦略だけでなく、その実現を支える経営体制や、リスクに直面した際の判断軸、経営の意思まで説明することで、投資家の納得につながります。そのためには、数値や図表に加えて、経営トップ、CXO、事業部門長の言葉も重要な役割を果たします。
たとえば、CEO、CFO、事業部門長がそれぞれメッセージを発信する場合、その役割は次のように整理できます。
| CEO | 全社として、なぜ今後も成長できるのかを示す |
| CFO | その成長を、資本・財務面からどのように支えるのかを示す |
| 事業部門長 | 顧客や市場に対して、現場でどのように価値を生み出すのかを示す |
CEOは、市場環境や全社の強み、成長戦略を踏まえ、企業が目指す方向性と成長の全体像を示します。
CFOは、成長投資への資本配分、財務基盤、収益性や資本効率などの観点から、戦略の実現を財務面でどのように支え、企業価値向上につなげるのかを説明します。
事業部門長は、顧客や市場の課題をどのように捉え、技術、人材、顧客基盤などの強みを生かして、事業の現場で価値を生み出しているのかを具体的に示します。
それぞれのメッセージを個別に完結させるのではなく、全社の成長戦略、財務面での実現可能性、事業現場における価値創出を相互に関連づけることで、価値創造ストーリーを立体的に伝えることができます。
5. 投資家説明に備えて確認したい8項目チェックリスト
投資家説明に備えて価値創造ストーリーを整理する際には、次のような点を確認することをおすすめします。
1. 冒頭で、自社が何者であるかが端的に伝わるか
2. 市場環境が、自社の成長機会と結びついているか
3. 顧客に提供する価値が明確になっているか
4. 競争優位性が、顧客価値や収益構造とつながっているか
5. 成長戦略が、具体的な施策や投資方針と結びついているか
6. 財務計画やKPIが、価値創造ストーリーの中で意味づけられているか
7. リスク認識と対応方針が、経営の現実感を伝えているか
8. 経営トップ、CXO、事業部門長の言葉が、全体の説明軸と整合しているか
これらの点を確認しながら、企業価値が生まれる構造と成長可能性を一貫した流れとして組み立てることで、投資家との質疑応答やその後の対話にも十分に備えることができます。
6. おわりに
投資家説明では、限られた時間の中で、自社の事業、強み、成長可能性を伝える必要があります。
重要なのは、情報を多く盛り込むことではなく、企業価値が生まれる構造を、自社ならではの価値創造と将来の成長が伝わる一貫した説明として示すことです。そうすることで、投資家説明は、上場後のIRコミュニケーションをも見据えた、投資家との対話の起点となります。
企業価値の構造の可視化から、価値創造ストーリーの構築へ

次回(最終回)は、IPO準備段階で整えた価値創造ストーリーを、上場後のIRコミュニケーションへどのようにつなげていくのかを解説します。
【その他の連載回の目次】
第1回 | IPO準備で作る「価値創造ストーリー」とは
第2回 | 成長可能性資料の書き方
第4回 | 上場後IRの始め方
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響きパートナーズ株式会社

響きパートナーズは、スタートアップの創業期から成長期にかけての様々なステージにおける経営サポートと実務支援を行なうコンサルティング会社です。
TN works代表 小宮山 直子
一橋大学法学部卒。日本IRプランナーズ協会検定会員(CIRP)。
企業の経営管理、経営企画、IPO準備などの実務を通じ、組織の価値をどのように捉え、社会や多様なステークホルダーに伝えていくかを、企業の現場で考えてきた。株式会社 KPMG FASを経て独立後は、統合報告書やサステナビリティレポートにおけるCXOメッセージ、インタビュー記事をはじめ、経営戦略、事業内容、ガバナンス、理念・方針などの言語化を支援。経営構造や事業の背景を読み解き、企業に内在する価値を可視化し、伝わる情報へと整理することを専門とする。