第2回|成長可能性資料の書き方 —— 投資家に伝わる「価値創造ストーリー」を整理する5つの視点【ワークシート付き】
1. はじめに
本連載『IPO準備から始める「エクイティストーリー」のつくり方』の第1回では、IPO準備における価値創造ストーリーの重要性と、価値創造ストーリー(エクイティストーリー)が各種資料の土台となることを確認しました。
第2回では、成長可能性を説明する資料を念頭に、企業に内在する価値を構造として読み解き、価値創造ストーリーへつなげるための視点を解説します。
2. 投資家が知りたいのは「将来も価値を生み出せる理由」
自投資家は、売上高や利益、成長率、収益性などの現在の業績に注目しています。また、中長期の計画やKPIも、企業の将来を理解するうえで欠かせません。
しかし、投資家が知りたいのは数字だけではありません。
・ 現在の業績は、どのような強みや仕組みによって生み出されているのか。
・ 今後も、その強みを生かして成長できるのか。
・ 成長に伴うリスクを、経営はどのように捉えているのか。
数字の背後にある企業の姿が見えることにより、投資家は将来像を理解し、投資判断を行いやすくなります。
特にIPO準備会社では、開示実績や投資家との対話の蓄積が限られているため、投資家が将来の企業価値を見極めることは容易ではありません。そのため、「これまで成長してきた」という実績だけでなく、今後も価値を生み出せる理由と、それを支える仕組みを可視化し、伝えることが重要です。
3. 企業価値の構造を、投資家に伝わる形で可視化する
成長可能性を説明する際には、事業内容や成長戦略を示すだけでなく、その背景にある価値創造の構造を、投資家に伝わる形で明らかにする必要があります。同じ情報であっても、どのような関係の中で位置づけるかによって、外部から見える企業価値は変わるからです。
価値創造の構造は、社内では当然のこととして認識されている場合があります。しかし、それが明確に言語化され、投資家に伝わる説明として整理されているとは限りません。事業の発展に集中してきたからこそ、自社を第三者の視点から捉え、その構造を外部に説明する機会が十分になかった企業もあります。
ここでは、実際の企業で見られた事例を匿名でご紹介します。
事例1 事業間の関係から、収益構造を説明する
売上高が伸び悩んでいる事業であっても、その機能や顧客接点が、他の事業の販売拡大や収益性向上に寄与していることがあります。
社内では事業間の関係が認識されていても、外部からは、事業別の数値だけを見て評価される場合があります。だからこそ、事業間の関係を可視化し、会社全体として収益を生み出す仕組みを説明することが重要です。
事例2 組織改編から、成長戦略の実行力を説明する
新規事業や新商品の拡大を目的として、新たな部門を設置した企業がありました。
その背景には、事業性の評価や部門間の調整、事業化の推進を一元的に担い、新規事業を継続的に生み出す仕組みを整えようとする経営の意図がありました。
この意図を可視化しなければ、新部門の設置は単なる組織図上の変更として認識され、成長可能性の評価にはつながりません。組織改編の背景にある経営の意図や実行体制を説明することで、成長戦略を実現する力を伝えることができます。
事例3 子会社のデータを、グループの競争力として説明する
大企業の傘下にある企業は、親会社のブランド力によって成長しているように見えることがあります。しかし、ある事例では、子会社に長年蓄積されたデータが、親会社の商品開発や事業運営を支えていました。
この場合、子会社がグループ全体の競争力を支える重要な経営資源を保有していることを説明することで、子会社やグループの企業価値をより的確に伝えることができます。
このように、社内では当然とされている個別の情報も、投資家にとっては、そのままでは企業価値として理解しにくい場合があります。個別の情報を関係性の中で位置づけ、強み、経営資源、収益、成長とのつながりを可視化することで、企業に内在する価値を伝えることができます。
とりわけ経営トップとの対話では、日常の意思決定の背景にある考えや、まだ言葉になっていない将来構想が表れることがあります。こうした対話を手がかりに、企業価値が生まれる構造を言語化することが、説得力のある価値創造ストーリーを組み立てる出発点になります。
4. 価値創造ストーリーの骨格を整理する「5つの視点」
企業価値が生まれる構造を可視化したら、次に、そのつながりを価値創造ストーリーとして組み立てます。
最初から完成したストーリーをつくるのは、難しいと感じられるかもしれません。まずは次の5つの視点から、企業価値を生み出す要素とその関係を整理することで、ストーリーの骨格が見えてきます。

視点① 顧客・社会に対する提供価値
自社は、誰に、どのような価値を提供しているでしょうか。
・ 顧客のどのような課題を解決しているか
・ 顧客は、なぜ自社の商品・サービスを選ぶのか
・ その価値は、市場や社会にどのような意味を持つか
「何を売っているか」だけでなく、安心感、利便性、信頼、課題解決の質など、その背後にある提供価値にも目を向けます。
視点② 価値を生み出す強み・経営資源
その価値を生み出している強みや経営資源は何でしょうか。
・ 技術、人材、顧客基盤、データ、ブランドなど、自社らしい強みは何か
・ その強みは、なぜ競争優位につながっているか
・ 顧客価値や成長戦略と、どのように結びついているか
強みが、顧客価値や競争優位性、収益、成長とどのようにつながっているかを整理することで、その強みを企業価値を支える経営資源として把握できます。
視点③ 収益につながる仕組み
提供価値や強みは、どのように売上や利益につながっているでしょうか。
・ 売上や利益は、どのような仕組みで生まれているか
・ 収益性を支えている要因は何か
・ 今後の収益成長につながる要素は何か
商品やサービスが評価されていても、収益化と拡大の仕組みが見えなければ、成長可能性は判断しにくくなります。
視点④ 成長の道筋
今後、どの市場機会を捉え、どのように成長していくのでしょうか。
・ 既存事業の拡大や新規領域への展開など、成長の方向性は何か
・ 自社がその機会を捉えられる根拠は何か
・ どのような投資や体制整備を進めているか
市場の成長性だけでなく、強みや経営資源を生かし、投資や組織づくりを通じて成長を実現する道筋を示します。
視点⑤ リスク認識と経営の意思
成長に向けたリスクを、どのように認識し、対応しているでしょうか。
・ 市場環境、競争、人材、技術、規制などの重要なリスクは何か
・ どのような備えをしているか
・ 経営者は、どのような前提で事業を見ているか
リスクに触れないことが信頼につながるわけではありません。リスク認識、対応方針、経営の意思をあわせて示すことで、成長戦略に現実性と信頼性が生まれます。
顧客や社会への提供価値を強みや経営資源が支え、その強みが収益を生み、蓄積した経営資源が次の成長へつながる。その過程で生じるリスクに、経営が意思を持って向き合う。
これらの要素を時間軸と因果関係のある流れとして示すことで、自社が将来も価値を生み出せる理由を、投資家に説得力を持って伝えることができます。
5. おわりに
成長可能性を説明する資料で問われるのは、現在の事業内容や業績だけではありません。
自社が提供する価値、強み、収益の仕組み、成長の道筋、リスクを一連の関係として整理することで、価値創造ストーリーの骨格が見えてきます。
次回は、この骨格を、投資家に伝わる説明軸としてどのように組み立てるかを解説します。
【その他の連載回の目次】
第1回 | IPO準備で作る「価値創造ストーリー」とは
第3回 | ロードショーマテリアル(ロードショー資料)の組み立て方
「価値創造ストーリー骨格整理シート(5つの視点)」を無料配布中
本記事の5つの視点を、社内ワークショップでそのまま使える書き込み式シートにしました。下記フォームよりダウンロードいただけます。
響きパートナーズ株式会社

響きパートナーズは、スタートアップの創業期から成長期にかけての様々なステージにおける経営サポートと実務支援を行なうコンサルティング会社です。
TN works代表 小宮山 直子
一橋大学法学部卒。日本IRプランナーズ協会検定会員(CIRP)。
企業の経営管理、経営企画、IPO準備などの実務を通じ、組織の価値をどのように捉え、社会や多様なステークホルダーに伝えていくかを、企業の現場で考えてきた。株式会社 KPMG FASを経て独立後は、統合報告書やサステナビリティレポートにおけるCXOメッセージ、インタビュー記事をはじめ、経営戦略、事業内容、ガバナンス、理念・方針などの言語化を支援。経営構造や事業の背景を読み解き、企業に内在する価値を可視化し、伝わる情報へと整理することを専門とする。