コラム

第1回|IPO準備で作る「価値創造ストーリー(エクイティストーリー)」とは —— 成長可能性資料・ロードショー資料・上場後IRの土台づくり

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今回の連載コラムを担当する、TN worksの小宮山直子です。TN worksでは、統合報告書やIR資料、経営トップ・CXOメッセージなどの制作支援を通じて、企業価値や経営の考えを投資家に伝わる言葉へ整理するお手伝いをしています。

本連載では、『IPO準備から始める「エクイティストーリー」のつくり方』をテーマに、企業価値を投資家に伝わる形で整理し、上場後IRへつなげていくための考え方を解説します。成長可能性資料やロードショー資料、上場後IRに共通する説明軸を、上場前からどのように準備しておくかを、全4回を通じて考えます。

1. IPO準備で見失いやすい「上場の目的」

IPO準備では、資本政策、内部管理体制の整備、監査対応、証券会社・取引所への対応など、多くの実務が同時に進んでいきます。上場申請に関する資料、開示書類、社内管理資料、投資家向け資料など、整えるべき資料も多岐にわたります。
私もIPO準備会社において一連の資料作成を担当した経験がありますが、膨大な業務に追われる中で、資料の形式を整え、内容を正確に記載することで精一杯でした。
もちろん、主幹事証券会社や証券取引所による上場審査を通過するためには、形式と正確性を確保することが最低限必要です。
しかし、それだけに意識が向きすぎると、上場によって何を実現したいのかという本来の目的を見失いかねません。

企業が上場を目指す理由には、資金調達力や社会的信用、人材採用力の向上、既存株主への投資回収機会の提供などがあります。いずれの目的であっても、上場後は資本市場と直接向き合い、自社の価値や成長可能性を継続的に説明していくことになります。
だからこそIPO準備では、自社がどのような価値を生み出し、その価値をどのように成長へつなげるのかを、投資家に伝わる形で整理しておくことが大変重要になります。

2. 「価値創造ストーリー」とは何か

情報を洗い出すだけでは、価値は伝わらない

自社の価値を整理する第一歩は、自社に関する情報をできる限り洗い出すことです。社内資料を集め、経営トップやCXO、各部門の責任者、現場で業務に携わる従業員などへのヒアリングを実施することもあります。
しかし、それらの情報をただ並べるだけでは、自社の価値を十分に伝えることはできません。
必要なのは、事業、強み、経営資源、戦略、財務・非財務の取り組みが、どのように関連し合いながら企業価値を生み出しているのかを読み解くことです。

たとえば、優れた技術を持つ製造業の企業であっても、その事実だけでは、企業の価値を十分に説明することはできません。その技術がどのような顧客価値を生み、競争優位性や収益、将来の成長につながっているのかを理解して初めて、企業価値が生み出される構造が見えてきます。
その構造をもとに、自社がどのような価値を生み出し、それをどのような強みや経営資源で支え、今後の成長へつなげるのかを、一貫した流れとして可視化したものが「価値創造ストーリー」です。投資家向けの文脈では「エクイティストーリー」と呼ばれることもあります。
ここでいう「ストーリー」とは、演出された物語ではありません。現在の価値創出から将来の成長へ至る因果関係や道筋を、投資家が理解しやすい説明軸として整理したものです。

個別のテーマを、価値創造の流れとしてつなぐ

上場企業が発行する統合報告書やウェブサイトの説明・メッセージには、多くの場合、必要なテーマが漏れなく盛り込まれています。ところが、それぞれのテーマが関連づけられないまま、ただ並んでいるということも少なくありません。
たとえば、中期経営計画の進捗と課題、積極投資、人的資本、新商品、ガバナンス、IR活動といったテーマをもとに、企業価値を説明する場合を考えてみましょう。
これらを個別の取り組みとして説明するだけでは、企業価値の全体像や成長の道筋を十分に伝えることはできません。
そこで、次のような流れで整理してみると、どうでしょうか。

ここでは、新商品を単独の成長材料として扱うのではありません。中期経営計画の課題を乗り越えるための投資と人材が、新商品の開発・事業化につながり、その投資判断をガバナンスが支えていると整理します。さらに、IR活動を通じて得た外部の視点が、次の経営判断へ還元されていきます。
このように整理することで、企業価値と持続的な成長を生み出す構造が見えてきます。

3. 価値創造ストーリーはIPO準備資料のどこで生きるのか

IPO準備段階では、成長可能性を説明する資料、ロードショー資料(ロードショーマテリアル)、経営トップ・CXOメッセージ、会社紹介資料など、投資家や市場に向けて自社を説明する場面が増えていきます。
その過程は、上場に必要な資料を用意すると同時に、自社の企業価値がどのような構造によって生み出されているのかを見直し、投資家に伝わる形で可視化する機会でもあります。
その機会を活用し、価値創造ストーリーを整理しておくことで、資料を作成しやすくなるだけでなく、上場後の一貫したIR活動の土台づくりにもなります。

参考資料|IPO準備における主な資料・場面と価値創造ストーリーの関係

資料・場面 主な目的 価値創造ストーリーの関わり
上場審査対応資料・社内整理資料 上場審査に向けて、事業内容、管理体制、リスク等を説明・確認する 制度対応・審査対応が中心。価値創造ストーリーは直接の主役ではないが、事業理解や説明の一貫性に関わる
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部、Ⅱの部)、新規上場申請者に係る各種説明資料など 事業内容、リスク、財務情報等を正確に開示する

正確性・網羅性が中心。事業説明やリスク認識の整合性に価値創造ストーリーが影響する

事業計画及び成長可能性に関する事項

(成長可能性資料)(※)

事業モデル、競争力、成長戦略、KPI等を投資家に説明する

価値創造ストーリーが特に重要。自社がなぜ成長できるのかを一貫して示す必要がある

ロードショー資料

(ロードショーマテリアル)

投資家に投資魅力や成長可能性を説明する 価値創造ストーリーの中核。短時間で「なぜこの会社か」を伝える必要がある
経営トップ・CXOメッセージ 経営の意思、成長戦略、リスク認識を伝える

価値創造ストーリーに人の言葉と意思を与える役割を持つ

会社紹介資料・IRサイト

投資家、採用候補者、取引先など幅広い相手に企業像を伝える

価値創造ストーリーを社外発信の共通軸として展開する
上場後の決算説明資料・IR資料 業績進捗、戦略の実行状況、今後の見通しを継続的に説明する 上場前に整理した価値創造ストーリーを、進捗説明へつなげていく

※「事業計画及び成長可能性に関する事項」は「成長可能性資料」とも呼ばれ、東京証券取引所グロース市場の上場会社に継続的な開示が求められる資料です。本連載では、IPO時に作成する同資料を念頭に置きながら、IPO準備会社に共通する企業価値の整理と発信について考えます。

4. まとめ

IPO準備では、多くの資料作成や実務対応が求められます。その中で、価値創造ストーリーは、自社の成長可能性や経営の意思を投資家に伝えるための土台になります。
事業、強み、経営資源、戦略などが、どのようにつながって価値を生み出しているのか。その構造を可視化し、現在から将来への流れとして整理することで、成長可能性資料やロードショー資料、上場後IRに共通する説明軸が見えてきます。

次回は、成長可能性資料を念頭に、自社の企業価値を構造的に把握するための視点について解説します。

 


【その他の連載回の目次】
第2回 | 成長可能性資料の書き方

 

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響きパートナーズ株式会社

響きパートナーズは、スタートアップの創業期から成長期にかけての様々なステージにおける経営サポートと実務支援を行なうコンサルティング会社です。

監修者

TN works代表 小宮山 直子

一橋大学法学部卒。日本IRプランナーズ協会検定会員(CIRP)。
企業の経営管理、経営企画、IPO準備などの実務を通じ、組織の価値をどのように捉え、社会や多様なステークホルダーに伝えていくかを、企業の現場で考えてきた。株式会社 KPMG FASを経て独立後は、統合報告書やサステナビリティレポートにおけるCXOメッセージ、インタビュー記事をはじめ、経営戦略、事業内容、ガバナンス、理念・方針などの言語化を支援。経営構造や事業の背景を読み解き、企業に内在する価値を可視化し、伝わる情報へと整理することを専門とする。

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