発行者情報

発行者情報とは

一般的に「発行者情報」と言うと、株式・債券等を発行する主体の情報を発行者情報と言う場合が多いですが、本ページでは、TOKYO PRO Marketへの上場申請書類であり上場後の開示書類である「発行者情報」に限定して解説します。

「発行者情報」は、投資家やステークホルダーが企業等の概要や経営・財務情報等を知るための書類です。TOKYO PRO Marketへの上場時には、特定投資家への投資勧誘がない場合等に、「特定証券情報」の書類の代わりとして提出が必要です。
また、TOKYO PRO Market上場後には、直前の事業年度もしくは中間会計期間(※連結決算の場合は、連結会計期間もしくは中間連結会計期間)の末日を経過した日から、3か月以内に提出・公表する必要があります。つまり、年2回の公表義務を負います。
ただし、他の開示要件で有価証券報告書の提出義務のある企業に対しては、この書類の提出義務はありません。

発行者情報の記載項目

「発行者情報」は、一般的な「有価証券報告書」に代わって、TOKYO PRO Market上場企業が作成・開示すべき書類のため、東証が定める様式(特例施行規則別記第4号様式)に従って作成します。「有価証券報告書」と見比べていただくと、同じような項目で構成されていることが分かります。
例えば第一部では、企業の概要や経営・財務情報等を一通り掲載する形になっており、いわば有価証券報告書の簡易版のような書類です。

具体的な記載項目は、以下の通りです。

「発行者情報」記載項目一覧(特例施行規則別記第4号様式より抜粋)

発行者情報

第一部【企業情報】

 第1【本国における法制等の概要】
 第2【企業の概況】
   1【主要な経営指標等の推移】
   2【沿革】
   3【事業の内容】
   4【関係会社の状況】
   5【従業員の状況】
 第3【事業の状況】
   1【業績等の概要】
   2【生産、受注及び販売の状況】
   3【対処すべき課題】
   4【事業等のリスク】
   5【経営上の重要な契約等】
   6【研究開発活動】
   7【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
 第4【設備の状況】
 第5【発行者の状況】
   1【株式等の状況】
   2【自己株式の取得等の状況】
   3【配当政策】
   4【株価の推移】
   5【役員の状況】
   6【コーポレート・ガバナンスの状況等】
 第6【経理の状況】
 第7【外国為替相場の推移】
 第8【発行者の株式事務の概要】

第二部【特別情報】
 第1【外部専門家の同意】

第三部【当該有価証券以外の有価証券に関する事項】

「発行者情報」作成のポイント

第一部の【企業情報】では、本邦企業であれば、通常は第2の【企業の概況】から始まり、企業の主要な数値を掲載するところから企業の沿革などを含む概況、第3の【事業の概況】で事業の内容などを財務数値も含めて記載します。
特に、第3の【事業の概況】に含まれる、3【対処すべき課題】、4【事業等のリスク】、7【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】については、投資家が投資する際にリスク・リターンの把握や分析に繋がる重要な情報なので、網羅的に洗い出し、適切に記載することがとても重要と考えられます。
最初に記載を検討する際には、網羅性の観点から、同業他社等の記載内容を一部参考にすることも有効です。

第6【経理の状況】では、連結または単体財務諸表(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書)を注記事項も含めて掲載します。監査も受けるので、数値をスムーズに把握・公表できるよう、社内の組織・システム体制を整えることや、監査法人への監査過程をスムーズにしておくことが必要です。実際には、上場までの間に、トライアルとして、同様の作業を一定期間内に行うことが望ましいと考えられます。

第二部の【特別情報】、第三部の【当該有価証券以外の有価証券に関する事項】は、該当する場合に記載する形です。

なお、特例施行規則別記第4号様式には記載指示はないものの、第四部に【株式公開情報】を添えるのが通例となっています。

「発行者情報」の公表方法・公表後の対応

「発行者情報」の公表は、①東証のウェブサイトへの掲載、②上場会社のウェブサイトへの掲載のいずれかの方法を選択できるとされていまますが、両方に載せるのが通例です。

(東証ウェブサイト TOKYO PRO Market銘柄一覧)

また、一度掲載された「発行者情報」は、投資家やステークホルダーがいつでも縦覧・参照できるよう、次の「発行者情報」が掲載されるまでは継続して掲載する必要があります。また、もし、当該「発行者情報」の内容に変更又は訂正すべき事項が生じた場合、上場会社は担当 J-Adviser と相談の上、直ちにその内容を公表しなくてはなりません。
自社のウェブサイトに載せる場合、投資家がわかりやすい場所となるよう、ホームページ全体の構成を考えて整えることも重要です。特に、IRに関する内容は極力少ないクリック数で適切な情報にアクセスできる形になっているかを確認する必要があります。

「発行者情報」作成に向けて

企業情報の作成においては、社内のデータや情報を収集するほか、経営陣による経営の分析等も必要です。また、経理の情報等に記載される財務情報については、信頼性のある数値である必要があるため、掲載する財務書類に対して、一定の基準を満たした監査報告書等の添付が求められます。そのため提出までに、監査法人からの監査も必要となります。

冒頭に解説した通り、「発行者情報」はTTOKYO PRO Marketへの上場申請書類であるため、その内容が東証の定めるルールに従い適切に作成されているかが問われます。
また、当該ルールの変更があった場合は、それを踏まえた記載内容の変更を行うほか、順守すべき会計基準の変更や、他市場等の同様の相当書類である有価証券報告書の記載要領が変更される場合は東証のルールも変更される場合があるため、毎年度の作成に当たっては、当該ルールをきちんと参照することや、将来的な記載要領の変更に関しては有価証券報告書の記載要領のルール変更の動向等を確認しておくことも有用です。
「発行者情報」の作成指導は担当 J-Adviser が行ってくれますが、執筆は企業担当者が行うことになります。執筆者には、上記のようなルールや会計基準など一定の専門知識が求められるため、有価証券報告書の作成経験がある担当者や外部専門家など、いわゆる勘所がわかるメンバーで作成していくことが効率的と言えます。