M&A

M&Aとは

M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、企業が他の企業と統合したり、他の企業を買収したりすることで成り立つ事業戦略の一つです。主に以下の2つの形式があります。

1.Mergers(合併)

2つ以上の企業が一つに統合されることを指します。合併により、企業は新しい組織として再出発するか、または一方の企業が存続企業となる形で再編成されます。

2.Acquisitions(買収)

企業が他の企業の株式や資産を取得し、経営権を掌握することを指します。買収先企業は独立性を失うことが一般的ですが、ブランドや組織構造が維持される場合もあります。

M&Aの目的

M&Aは、事業の拡大、新しい市場への参入、競争力の強化、技術や人材の獲得などの目的で実施されます。

M&AとIPOの比較

M&AとIPO(Initial Public Offering、株式公開)は、企業が成長や資金調達を目的に用いる戦略ですが、これらは大きく異なるアプローチと特徴を持ちます。それぞれのメリットとデメリットについて、以下に比較します。

1. M&A(合併と買収)

  • 目的: 他社と統合や買収を行うことで、市場シェア拡大、競争力強化、新技術、ノウハウの獲得を図る。
  • 資金調達: 買収により相手企業の資産を取得できるが、直接の資金調達方法ではない。
  • スピードとリスク: 他社を一気に取り込むことで迅速な成長が可能。 ただし、企業文化やビジネスモデルの違いから統合失敗のリスクがある。
  • コスト: 買収資金、統合コスト、アドバイザリー費用などが発生し、資本も多く必要。
  • 企業の統制: 買収側が相手企業の経営権を握るため、支配権を確立しやすい。

2. IPO(株式公開)

  • 目的: 株式を証券市場に公開し、広範な投資家から資金を調達、信用力の向上、知名度の向上など実現する。
  • 資金調達: 上場時の新株発行を通じて資金調達が可能。
  • スピードとリスク: 上場までに一定の準備期間を要するだけでなく、上場後は株価変動や業績への市場の反応に伴うリスクがある。
  • コスト: 上場に伴う法的準備、監査、アドバイザリー費用などが発生するだけでなく、上場維持費用が必要。
  • 企業の統制: 株式の公開により、経営の透明性や情報開示義務が増し、株主の影響を受ける。経営権の分散リスクもある。

比較表

  M&A IPO
目的 統合や買収で企業の成長を加速 市場からの資金調達、企業価値の向上
資金調達

資金調達を直接目的としない

(大規模な)資金調達が可能
コスト

買収・統合コストがかかる

上場準備・監査コストがかかる
リスク

統合失敗、企業文化の不一致

株価変動や市場の評価リスク
経営統制

買収企業が経営権を確保しやすい

経営権が分散し株主の影響を受ける
情報開示

特別な公開義務はない

情報公開の義務が厳格化される

結論

M&Aは迅速な成長や市場シェア拡大を図りたい企業に適しており、一方、IPOは新たな資金を得たり、企業価値(信用力・知名度)向上を図りたい企業に適しています。企業の戦略や目的に応じて、どちらの手段を選択するかが決まります。

M&Aの進め方(①売い手の立場、②買り手の立場)

M&Aの進め方には、売り手と買い手それぞれの立場で異なる準備や手順が求められます。

①売り手の立場からのM&Aの進め方

1.事業売却の目的と方針決定

事業売却を行う目的(資金調達、事業再編、経営資源の集中など)を明確にし、売却対象の事業や範囲、売却先の条件(同業他社、異業種、投資ファンドなど)を決定します。

2.売却対象の価値評価(バリュエーション)

自社の売却対象事業の価値を評価します。企業価値の算定には専門的な知識が必要なため、会計事務所や金融機関などアドバイザーのサポートを受けることが一般的です。

3.買い手候補の選定とアプローチ

上記2.のバリュエーションのアドバイザーと同一の場合もありますが、条件に合う買い手候補を選定するため、ファイナンシャルアドバイザー(FA)を選定し、適切な方法(インフォメーションメモランダムやティーザーと呼ばれる情報提供書類など)を用いて、FAを通じて買い手候補にアプローチします。

4.デューデリジェンス”Due Diligence”(DD:企業調査)の準備

買い手からのDDに対応できるよう、財務資料や法務文書、各種契約書などを整備します。

5.交渉と契約締結

買い手から意向表明書(LOI:Letter of Intent)を受領し、FAを通じ価格や条件の交渉を行い、一般的には基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)を締結の上で、合併契約書(Merger Agreement)あるいは株式譲渡契約書(SPA:Stock Purchase Agreement)により最終的な契約を締結します。交渉内容には、価格だけでなく、買収後の経営の方針や条件なども含まれることが多いです。ここでは、FAを交えて法務・財務の専門家が詳細を詰め、最終的な買収契約書を締結します。

6.クロージングと売却後の手続き

契約内容に基づき最終手続きを行い、正式に売却を完了させます。売却後の対応や従業員や取引先への説明、合意した事項の遂行が必要になります。

②買い手の立場からのM&Aの進め方

1.戦略立案とターゲット選定

自社の成長戦略や事業拡大における目標を確認し、M&Aによって達成したい内容を具体化します。対象とする業界、事業規模、地域などの基準をもとに買収ターゲットを選定します。

2.ターゲット企業へのアプローチ

関心のある企業へ直接交渉を始めるか、ファイナンシャルアドバイザー(FA)を選定してFAを通してアプローチします。提携の意向を示すために、意向表明書(LOI:Letter of Intent)を提出することが一般的です。

3.デューデリジェンス(DD)の実施

買収候補企業に対して財務、税務、法務、労務、事業内容、知的財産などの詳細なDDを行い、リスクや問題点を洗い出します。なお、これらのDDは、弁護士や会計士等の各分野の専門家に依頼することが一般的です。ここでは買収後のシナジー効果や潜在的なリスクについても評価します。

4.企業価値の評価と条件の交渉

DDの結果を踏まえ、企業価値を算定し、買収価格や条件を交渉します。交渉は、企業価値だけでなく、条件面(役員の配置や従業員の処遇、契約解除の条件など)についても行われます。また、市場シェアの拡大が伴う場合、独占禁止法への対応も考慮が必要です

5.基本合意書(MOU)と契約締結

条件が合意に至ったら、基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)を締結し、合併契約書(Merger Agreement)あるいは株式譲渡契約書(SPA:Stock Purchase Agreement)による最終的な契約締結に向けて調整を進めます。ここでは、FAを交えて法務・財務の専門家が詳細を詰め、最終的な契約書を締結します。

6.クロージングと統合プロセス(PMI)

契約に基づき、買収を完了させます。買収後には、統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)が必要となり、組織文化や事業運営の統合を進めるための計画と実行が求められます。

まとめ

売り手と買い手の視点で進め方は異なりますが、どちらも事前の準備や調整、リスク管理が重要です。売り手は事業価値の適正評価とリスク対策を行い、買い手は事業シナジーとリスクを見極めた上で、買収後の統合プロセスを視野に入れてM&Aを進める必要があります。

M&A(主に買い手)のメリットとデメリット

M&Aには、成長戦略や経営課題の解決に大きなメリットがある一方、統合の難しさやリスクも伴います。以下に、M&Aの主なメリットとデメリットを示します。

M&Aのメリット

1.市場シェアの拡大

同業他社を買収することで市場シェアが一気に拡大し、競争優位性を高められます。

2.新市場への参入

異業種や海外企業の買収により、新しい市場や地域への参入が可能です。

3.スピーディな成長

自社でゼロから事業を構築するよりも、既存企業の買収により迅速な事業拡大が図れます。

4.シナジー効果

製品、技術、顧客基盤、サプライチェーンなどの統合により、コスト削減や収益向上のシナジーが得られます。

5.競争力の強化

競合他社を買収し、技術やノウハウ、人的資源を獲得することで競争力を向上させられます。

6.経営資源の効率化

経営資源を統合し、重複する機能や部門を削減することでコスト効率が向上します。

7.技術・ノウハウの獲得

特定の技術やノウハウを持つ企業を買収することで、自社の技術力や開発スピードを強化できます。

8.多角化戦略の実現

異業種の企業を買収することで、多角化を進め、景気変動リスクや業績リスクの分散が図れます。

9.規模の経済

大規模化によって生産コストが削減され、スケールメリットによる競争力強化が可能です。    

10.人材の獲得

特定分野で優れた専門知識や経験を持つ人材がいる企業を買収することで、優秀な人材を自社に取り込めます。

M&Aのデメリット

1.統合失敗のリスク

組織文化や事業モデルの違いから、統合がうまくいかずシナジーが得られない場合があります。

2.高額な買収コスト

買収には多額の資金が必要であり、失敗すると資金の損失につながるリスクがあります。

3.デューデリジェンスの負担

買収前の調査には多くの時間とコストがかかり、不十分な調査は統合失敗や予想外のリスク発生につながります。

4.従業員の不安や離職

統合により従業員の不安が増し、優秀な人材が流出するリスクがあります。

5.ブランドや顧客の喪失

統合によってブランドイメージが変わることで、既存顧客が離れる可能性があります。

6.業績悪化のリスク

買収後の一時的なコスト増加や統合の遅れが業績に悪影響を与えることがあります。

7.法務・税務リスク

M&Aには複雑な法務・税務の手続きが必要で、法令違反や税務リスクが発生する可能性があります。

8.負債や問題の引き継ぎ

買収企業の負債や法務リスクを引き継ぐことで、予期しない負担が発生する場合があります。

9.企業文化の衝突

企業文化の違いが従業員の士気低下やパフォーマンスの低下を引き起こすことがあります。

10.PMI(統合プロセス)の難しさ

統合には長期的な計画と多くのリソースが必要であり、適切に行わなければ期待するシナジー効果を実現できません。

11.株主や投資家の反発

高額の買収コストが企業価値の低下を招くことがあり、株主や投資家からの反発や株価の下落リスクがあります。

12.集中力の分散

買収後の統合に多くのリソースが投入され、本来のコア事業に集中できない場合があります。

まとめ

M&Aは企業にとって成長と競争力を大幅に強化する手段ですが、同時に統合の難しさやリスクも伴います。メリットを最大限に活かし、デメリットを抑えるためには、買収前の十分なデューデリジェンスと、買収後の計画的な統合プロセス(PMI)の実行が重要です。

M&AとIPOのメリット・デメリット

  M&A IPO
目的

市場シェア拡大、新市場参入、事業の多角化

迅速な成長が可能

資金調達、企業価値向上

新たな投資家からの資金調達

資金調達

資金調達の直接目的ではないが、資産取得が可能

株式公開により(大規模な)資金調達が可能
コスト

買収費用、統合費用が高額

上場準備や監査費用など多額の初期コスト
リスク

統合失敗リスク、負債やリスクの引き継ぎ

組織文化の衝突による統合困難性

市場環境や業績による株価変動リスク

上場後、企業価値の変動によるリスク

スピード

即効性が高く、短期間で事業拡大が可能

上場までに準備期間が必要
経営統制

経営権を完全取得しやすい

経営統制を維持しやすい

株式公開による経営権の分散リスク

株主の影響を受けやすい

企業の透明性

特に求められない

株主・投資家への情報開示義務が厳格化

法令・規則に基づく継続的な開示が必要

ブランド・信頼性

ブランド価値や顧客基盤を統合で強化できる

既存ブランド・顧客の喪失リスクあり

上場企業として社会的な信頼性が向上

企業の信用度が向上しやすい

株主・投資家対応

反発の可能性はあるが、影響は少ない

投資家・株主への関与は限定的

株主への説明責任が増し、短期業績への圧力

株価に対する投資家の期待がかかる

人材

優秀な人材の獲得や専門知識の取得

統合不安による離職リスクあり

上場により社員の士気向上

知名度の向上やストックオプションなどで優秀な人材確保が可能

響きパートナーズ株式会社

響きパートナーズは、IPO支援を行なうコンサルティング会社です。ベンチャー企業の経営支援・IPO支援のプロフェッショナルとして、毎年、国内で上場する企業のおよそ10社に1社をご支援しています。当社では、IPOに関する課題をお持ちのお客様に、アドバイスだけでなくコンサルタントが実際に手を動かして、課題解決に向けて伴走支援いたします。

監修者

井熊 実

野村證券公開引受部、㈱エイチ・アイ・エス上場準備PJ統括、エイチ・エス証券取締役、事業会社取締役、SBI証券執行役員などを歴任し、2021年に響きパートナーズに参画。取締役パートナー。

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